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実効力あるBCPの策定に向けたポイント(クリックして開く)

はじめに

東日本大震災に続き、昨年政府から発表のあった首都直下型地震や南海トラフ巨大地震の被害想定が極めて甚大だった事もあり、
BCP(危機管理体制)の見直しや策定に乗り出す企業が少なくありません。

しかしながら、実務担当者がBCPの見直しに着手し始めた途端、具体的には

「何から検討を始め、どうまとめたら良いのか」

が分からず検討が一向に進まない、といった事態に陥っている企業も少なくなりません。

そこで、今回のCIOレポートでは、
筆者がこれまで支援してきたBCP・危機管理体制の整備支援に関する経験等を踏まえ、実効力のあるBCPを策定する為の要点をレポートします。

アジェンダ

要点1 特定の発生事象を前提として具体的に検討する。

南海トラフ巨大地震による最大クラスの津波の高さ

企業の実務担当者がBCPをまとめる際、

  • マグニチュード8以上の地震
  • 震度6以上の地震

といった前提条件を設定して、検討に着手するアプローチが一般的です。

しかし、前提条件がその後の中身の具体的な検討に反映されず、結果的に

「BCPには総論ばかり記載されている」
「各論(具体論)に落とし込みが出来ていない為、いざという時、あまり役立ちそうもない」

といった声をよく聞きます。

こうした事態を招く主な原因のひとつに、前提条件が広義すぎる事が挙げられます。

例えば、震源地が特定できていない為、自社の施設や主な設備別の被害状況を想定できないケース等が該当します。

BCPは、

  1. 被害状況を想定し
  2. 一方で取引関係等を踏まえて復旧目標を設定した上で
  3. 想定被害を起点に復旧目標に向けた復旧活動を検討すると共に
  4. (出発点の)被害が深刻で復旧活動だけでは目標達成が困難な場合は、被害想定の低減に向けて予防措置を検討し実行する

といった流れで検討する必要があります。

従って、設定した前提条件が広義である程、
被害状況の想定(1)と復旧目標の設定(2)が抽象的になり、以後(3・4)の具体的検討に落とし込めない事態を招きます。

ただ、こうした検討方法を提案すると、

「災害(震災)を具体的に特定すると、他の災害への適用が難しくなる」

といった担当者の声も少なくありません。

確かに、「震度6強以上の首都直下型地震」と具体的に設定して検討したBCPでは、
南海トラフ巨大地震(や関連する東海・東南海地震)等に、そのまま流用するには無理があります。

しかし、この点について内閣府は事業継続ガイドライン(2009)の中で、

先ずは自社に被害の大きな想定地震を選び、
次に他の想定地震等への適用範囲の拡大に向けてBCPを充実させる

といった現実的なアプローチを推奨しています。

事業継続ガイドライン(2009)の抜粋

(本ガイドラインは)具体的には、はじめに想定する災害として重大な災害リスクで海外からも懸念の強い「地震」を推奨し、その後、段階的に想定する災害の種類を増やしていく現実的なアプローチを例示している。

先ず自らの主要な施設、本社、主力工場などに影響を及ぼす可能性のある想定地震を一つ選ぶなどの方法である。もちろん、余裕があれば複数の想定地震について検討してもよいし、他のリスクを一つ(又は少数)選んでスタートしてもよい。

一方、同じ首都直下型地震であっても、元禄型、立川断層型、東京湾北部型など震源地の候補が複数あり、それぞれの震源地によって同じ場所でも予想震度や火災、液状化や地滑り等の想定が大きく異なります。また、発生時期(季節や時間帯)によっても火災等の被害想定が大きく異なります。

同じ災害であっても様々な要因が絡み合う中で、数千・数万通り以上の膨大な被害想定パターンが存在する為、これらを1つずつ個別のBCPとして検討する事は企業レベルでは現実的とはいえません。

こうした場合、リスク・マネジメントの基本的な考え方にそって検討を進める必要があります。即ち、行政が作成した発生パターン別のハザードマップ等を利用しつつ、最悪の事態を想定して、主要な施設や設備の被害想定を設定する事で、以後の具体的な検討(落とし込み作業)に踏み込めるのであれば、同じ災害を発生パターン別に更に細かく分けて検討せずとも良い、といえます。

要点2 優先すべき業務と、それに必要な経営資源をハッキリさせる。

ひとたび大災害が発生すると、出社して業務に従事できる従業員が限定されるばかりか、
施設や設備、在庫、備品の破損・損壊が生じ、平常時と同水準で業務を遂行する事が適わなくなります。

そもそも、平常時と同水準の事業活動が可能なら、BCPを適用する必要はありません。

従って、BCPを検討する際には、自社の経営資源に破損や損壊が生じ、利用できる経営資源に限りがある状態(いわゆる「縮退」の状態)を前提とする必要があります。

こうした縮退状態において、

平常時の枠組み(例:部門の垣根等)を超えて、全社で優先して履行する業務を定める

事が、BCPでは重要です。

但し、この「優先業務」の意図を誤解したまま、検討を進めている企業も見受けられます。
優先業務は、安否確認やチェックリストを使った被害状況の確認など、いわゆる「初動」だけを指すものではありません。

むしろ、現状確認の後、企業が縮退状態で事業活動を始めるにあたって、具体的に優先すべき活動(業務)を定義する事に意味があります。

優先業務の例

  1. 大手建設業A社の場合
    被災地域において、自社の施工中物件の工事を継続する事よりも、過去の自社施工物件の損壊程度の診断と応急措置(とりわけ、液状化対策などの社会インフラに関わる物件の応急措置)を優先しています。
  2. 卸売業B社の場合
    震災前に受注した注文の出荷処理を一旦、ペンディングにした上で特定の商材について、メーカー(取引先)の在庫確認と確保、小売店(得意先)への提供可能商材の提示、輸送手段の確保を優先しています。
  3. 食品メーカーC社の場合
    平常時の多品種少量の生産方式から、切替え・段取り作業が発生しない、少品種多量の生産方式に切り替える事で、操業可能なラインの生産能力をフルに活かしつつ、絞り込んだ主力商品の生産を優先しています。

上記は一例ですが、優先業務の設定では総じて、

  1. 自社の社会的な責任や取引先との約束(契約内容)等を踏まえた優先業務の根拠
  2. 優先業務の反面、後回しにする業務

を検討する必要があります。

次に、設定した優先業務を運営する為に必要なリソース(施設・設備、ヒト、取引先、情報やデータ、業務資金など)を明確にする必要があります。
(補足)必要なリソースには、ガソリン等の燃料や消耗品が含まれる場合もあります。

この際、各々のリソースの必要量を算定する際に前提となるのが「復旧目標」です。

復旧目標は一般的に、復旧時間(①)と①の時点で実現すべき復旧レベル(事業水準や操業度など(②))の各々で構成されます。

また、①・②の何れの目標値を定める際も、被害状況(自社の事情や都合)を起点に検討するのではなく、外部(特に顧客や市場)の視点に立って検討する事が求められます。

加えて、縮退した業務環境では、取扱い可能な商品(製品)や対応可能な顧客を一部に限定せざるを得ない状況に陥ります。

従って、復旧目標の設定では先ず、

優先すべき顧客や商品(製品)を特定した後で復旧時間と復旧レベルを具体的に検討する方法が有効

です。

顧客や商品・製品の選別の代表的な視点

顧客の選別:取引規模やシェア、その他の戦略的要素から検討する
商品の選別:納期遅延の許容期間、代替品や類似品の有無、社会や消費者(≒被災者)のニーズ等から検討する。

上記を通じて設定した復旧目標を前提条件に、リソース毎に必要量を算定します。

但し、情報システム等の場合など、量的な指標は意味をなざす、個々のシステムの要否のみ判断すれば事足りる場合もあります。
(補足)ハンディターミナルやバーコードリーダー、PCの場合、必要台数の算定は有用ですが、業務系システムについては、優先業務の運営に必要なデータの有無を判断基準に当該システムの要否を決定します。

こうして算定された必要リソース(経営資源)は、被災地域だけで調達しきれない事も多い為、

非被災地のリソースを如何に効率的に被災地に届ける体制を確立できているか

がBCPでは重要です。(この点については、次章でまとめます。)

要点3 体制図だけでなく、優先業務のスキームを定義する。

多くの企業がBCP検討の第一歩として、
大災害等に伴う非常事態の際に「対策本部」、「現地対策本部」等の暫定組織を検討した後、体制図の作成から着手します。
また、対策本部長や現対本部長、事務局の(代理を含む)メンバー表の作成も同様です。

しかし、実際に非常事態に陥った際、体制図やメンバー表だけでは、スピーディな優先業務の再開や期待した操業水準の確保は難しいといえます。

非常事態発生時の主な特殊要因

  1. 判断事項が飛躍的に増加
    • 例えば、限られたリソースや在庫の配分や、損壊拠点や設備の取捨選択、地域社会への支援、従業員の出社免除や配置変更など、平常時とは全く異なる状況であらゆる判断が必要になります。
  2. 非被災地から被災地への業務リソースの投入(移動)が発生
    • 優先業務の再開に向けて、被災拠点で不足するヒトやモノを被災していない拠点から投入(移動)させる必要があります。
      これには、被害状況を把握する為に先遣隊を投入する等、不足量の算定前から対応すべき事項も含まれます。
  3. 非被災組織による業務代替が発生
    • 優先業務の再開に合わせて、被災拠点では担当できない業務を非被災拠点が代替する必要に迫られる事が多々あります(例えば、調達業務や生産業務など)。
      また、こうした代替業務の移管に合わせて、平常時には発生しない業務が発生する事も少なくありません。(例:移送業務など)

これらは何れも、被災組織が縮退状態にある中で、優先業務を再開するには不可避です。

従って、BCPを整備する際には、1~3を見越して、優先業務のスキーム(例えば、以下のI~III)を予め想定しておく事が重要です。

優先業務のスキーム定義に必要な事項

I.各組織で決定できる判断項目の定義

特殊要因で例示した判断事項に対策本部等が一極集中で対処していては、優先業務の再開が遅れるばかりで、被災拠点の混乱に拍車をかける事になります。

従って、非常時の各組織の役割・位置付けを明確化し、それに沿って現地や下部組織で判断できる事項は任せ、判断内容の報告ルール整備に力点をおくべきです。

但し、安易な現場任せは、会社としての一貫性を欠く恐れがある為、一方で重要な判断事項には予め最低限の判断基準やガイドラインを設けておく事が肝要です。

また、判断するタイミングの設定も同様に重要です。
非常時には判断材料となる情報が全て把握できずとも、概況に基づく判断が避けられないケースが多く発生します。

従って、こうした状況を見越して、

  • 復旧目標(時期)から逆算して判断すべき時期(目安)をアクション計画の中で定めると共に
  • 判断材料をチェックリスト化する
  • 判断材料の収集状況が芳しくない場合にアクション計画そのものを見直す(後ズレさせる)権限の所在(例:対策本部など)を明確にする

などがBCPの検討では重要になります。

II.確認事項と情報の報告・伝達経路(即ち、情報の流れ・スキーム)の定義

震災対応に限らず、不祥事対応等も含めたあらゆる想定事象において、BCPに沿って、各組織が適切に判断を下すには、適切な情報(判断材料)が不可欠です。

従って、被災拠点を含めて各担当者が確認した状況を、予め定めた意思決定者に報告(伝達)する事が求められます。

この際、特に留意すべき点として以下が挙げられます。

①確認事項の優先順位を明確にした上で、チェックリスト化する

非常時は様々な確認事項が発生し、しかも平常時と異なり確認に大きな労力を要します。
従って、確認事項の優先順位を明確にする事で、意思決定に少しでも役立つ判断材料を、適切な時期までに確認・報告できる体制を整えておく事が肝要です。
具体的には、上記で定義した判断項目・タイミングを起点に、逆算して現場の確認事項や報告期限(タイミング)を明確化する必要があります。

②報告・伝達の方法とタイミング(サイクル)を具体的に定める

適切な判断を積み重ねるには、現場での状況確認と同様に情報の報告・伝達が極めて重要です。
震災発生後は特に、電子メール等の平常時の伝達手段が不通になったり、携帯電話等が通じ難くなったりする事から、複数の報告・伝達手段の確保は今後、BCP整備に着手する企業にとっては大きな課題です。
しかし、伝達手段の確保にばかり焦点をあてるのではなく、報告・伝達のサイクルや各確認事項の報告タイミングを具体的に定める事も必要です。

③伝達・報告ルートを定める。

また、報告・伝達業務が所謂、伝言ゲームに陥らない様、被災拠点から対策本部への伝達ルートは、
平常時の組織階層にとらわれ過ぎる事なく、可能な限り最短ルート(直接報告ルート)を確立する事が望ましいといえます。
但し、平常時とあまりにも異なる、唐突な伝達・報告ルートは却って被災拠点の混乱を招く恐れがある為、注意が必要です。

例えば、先の3.11の折に、

「被災拠点の社員が対策本部からの問合せ対応や本社から派遣された支援メンバーのフォローにばかり手を取られ、本来なすべき業務に集中できなかった」

といった総括を耳にする事があります。

こうした企業は特に、次は同じ問題を繰り返さない為に、

  • 初期段階で確認すべき事項を予め、チェックリスト化しておく
  • 被災地と対策本部(本社等)間のコミュニケーション・ルールの見直し・明確化を進める
  • 被災拠点が本来なすべき業務(被災対応)に集中できる様、対策本部との窓口となる担当者(連絡将校の様な役割)を先遣メンバーとして被災拠点に送り込む、等

報告・伝達業務を俯瞰的に捉えた対応の検討が必要です。

III.顧客や取引先を包含したヒトやモノの流れ(スキーム)の定義

非常時は、被災拠点の機能復旧や事業再開に向けたリソース(生産設備や金型等の部品のみならず、
社員や燃料等の消耗品、備品を含む)の送り込みに加えて、被災していない拠点での業務の代替に伴うリソースの移送が重要です。

従って、BCPではこうした送り込みや移送に必要な手段を、主要な顧客や取引先を交えて検討しておく必要があります。

この際、特にボトルネックとなりそうな事項(例えば、燃料やトラックの確保など)を洗い出し、ボトルネック解消に向けて平常時から対処しておく事が望ましいといえます。

最後に…

最近は、企業間の様々な商取引において、取引先を選定する際に費用対効果と合わせて、BCPの整備状況を重視する動きが顕著になっています。

筆者が知り得る範囲でも、重要な原材料の調達先や業務の外部委託先を、BCPの観点から再検討している大手企業は少なくありません。

ただし、BCPは災害対策マニュアル等と異なり、事業(優先業務)の継続や早期再開を組織的に進める為の対応計画です。

従って、

一般的に公開されている標準テンプレートを活用して記入すれば出来上がる

といったものではなく、事業内容が各社各様である事と同様に、各社の事業内容に沿ったBCPの検討が必要です。

BCP策定は、

喫緊の経営課題として、
経営者のトップダウンの下、関係部門が集まって、会社全体を挙げて取組むべき

と私たちCIOパートナーズは考えています。

CIOパートナーズ株式会社
代表取締役 吉田明弘