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クラウド時代のITマネジメント(クリックして開く)
アジェンダ
当レポートの要約
近年、改訂費用を含むランニング・コストが主要因となり、
ITコストが高止まりしている企業が少なくありません。
一方、ITコストの低減に対する期待からクラウドサービスの普及が進んでいます。
しかし、企業はクラウドサービスの採用を検討する際、
これまで以上にTCO(導入からリプレース迄の総コスト)に着目して評価・判断する事が求められます。
また、クラウドサービスやタブレット端末の普及により、企業がIT経営力を高める際の技術的な課題は小さくなりつつあります。
しかし、ITマネジメントが脆弱な企業は、
この波に乗り切れず、結果として企業間のIT格差がますます拡大する懸念があります。
こうしたクラウド時代にIT経営力を高めるには、
ITビジョンを掲げ、経営層との合意形成を図ると共に、メタボリック化した既存システムのスリム化を通じて
「ITコストの構造改革の推進」と「社内のITリテラシーの一層の醸成」
を図る事こそが求められます。
1.イニシャル・コストとランニング・コスト
【グラフの解説】 2002年は、ITバブルの崩壊に伴う企業利益の減少、2009年は、リーマンショック等に伴う企業利益の減少を表しています。 一方でIT市場規模は、2008年以降、緩やかな減少局面に入っていると解釈できますが、それでも90年代後半と比べ、2倍以上の市場規模を維持しています。
近年、技術革新に伴い、ダウンサイジングが急速に進んでいる中でも、
情報システム・コスト(以下、ITコスト)の高止まりに苦しむ企業が少なくありません。
こうしたIT市場規模の動向の背景には、
- 中小企業等でのITの利用拡大
- インターネットの普及に伴う個人利用者(消費者)向けソフトウェア・サービスの増加(所謂、すそ野の拡大)
- 企業のITコストの高止まり
が、無視できない要因として挙げられます。
特に、企業のITコストの高止まりは、筆者がこれまでに支援してきた多くの企業に共通しています。
また、この主な原因は、
情報システムのイニシャル・コストではなく、改訂費用を含むランニング・コストにあります。
故に、企業経営者から見ると、ITコストが固定費として映る現状を招いています。
筆者が支援した企業でも既存システムの導入後の5年間で、
イニシャル・コストの2倍~3倍超のランニング・コストが発生しているケースが多くありました。
こうした企業では、クラウド時代の到来に合わせ、ランニング・コストを、より重視した管理が急務といえます。
2.クラウド・サービスとTCO
SaaSやクラウド・サービスの普及に伴い、企業が情報システムを調達する際の調達形態が多様化しています。
これらのサービスは、企業が負担するイニシャル・コスト(初期投資)を、大幅に抑制する可能性がある為、多くの企業で高い注目を集めています。
一方で、クラウド・サービスを提供するベンダーの中には、
クラウド・サービスを
「単なる技術革新の延長と捉え、収益構造は割賦販売の派生形」
と考えているベンダーも少なくありません。
こうしたベンダーが提供するクラウド・サービスは、ランニング・コストを加算すると、
ERP等のパッケージをベースとしたアドオン付き導入を含むSI型の導入形態のITコストと同等以上のITコストが発生する事も少なくありません。
加えて、こうしたクラウド・サービスでは、一定期間内でのサービス解約に違約金が発生する等、大きな解約コストやリスクを企業(ユーザー)に課す契約内容になっているケースも往々に見かけられます。
こうした契約内容となる背景には、一定期間(即ち、想定していた割賦期間)内に解約されると、“元手”が回収できないと考えるベンダーが多い事が挙げられます。
とはいえ、クラウド・サービス自体は、
以下の理由から今後も企業が上手に取り入れていくべきソリューションといえます。
- Googleやマイクロソフトといったグローバル展開する企業の派生サービスや、従来のパッケージ型ビジネスでは、考えられなかったニッチな事業を展開するベンダーのサービスを、企業が採用しやすくなる。(ボーダレス効果)
- ITコストの高止まりに苦しむ企業も多い中、ITコスト削減の可能性を秘めている。(コスト削減効果)
従って、これからの企業のITマネジメントでは、
クラウド時代の到来を踏まえ、各々の情報システムのイニシャル・コストにばかり目を向けるのではなく、
ライフサイクルTCOに焦点をあてた管理にシフトしていく必要
があると、私達CIOパートナーズでは考えています。
TCOとは
情報システムの新規導入から、次システムへのリプレース迄のライフサイクル全般で発生する総コスト(社内人件費や社屋の家賃等を含む)を指す。
クラウド・サービスでは特に次システムへの乗換えに伴うコストやリスクに注意を要する。
故に、導入検討の段階で、契約内容を適切に精査し、定量化(TCO化)しておく事が望ましい。
3.クラウド時代のITマネジメントの課題
前章までで、①ITコストは、ランニング・コストも含めたTCOにフォーカスする必要があり、
②クラウド時代の到来に伴い、この重要性が増々、高くなる事を解説しました。
しかし、TCOに着目したコスト・コントロールだけでは、ITを企業価値の向上に繋げる事はできません。
特に、クラウドサービスやタブレット等の新しい情報端末は、
ヒトや小組織(例:チーム等)に蓄積された暗黙知を形式知に変え、部門や企業の間で形式知の結合を促し、
全体最適化に向けて業務をドラスティックに変革し得る可能性を技術的に秘めています。
ただ、こうした可能性を企業が享受出来るか否かは、
「ITをマネジメントする側」のビジョンや戦略、価値観、組織体制が大きなカギを握っている
と私たちは考えています。
図表(4)はクラウド・タブレット時代の夜明け前にあたる平成20年に、経済産業省がまとめた、「企業のIT利活用に関する調査結果」の抜粋です。
具体的には国内企業がITを業務の最適化に繋げている範囲を検証した内容といえます。
当調査結果からは、およそ65%の国内企業では、
ITを企業全体の最適化に結び付ける事が出来ず、ITの利活用に、部門の壁が大きく立ちはだかっている現状が窺えます。
実際、筆者がこれまで、ITの再構築を支援してきた企業の多くでも、
全体最適の観点で業務を再検証しきれずに、カスタマイズ要件が膨らみ、ITコストの増大に至っているケースが少なくありませんでした。
私たちCIOパートナーズでは、
これまでの経験を元に、こうした事態に陥る原因は大きく以下の3点に大別される、と考えています。
- ITビジョンの欠如
- 企業が、ITを経営に「どう活かしていきたいのか」が、明確になっていない。
また、ビジョンが描けていても、経営層との合意形成が充分にとれず、ビジョンを達成すべき目標として掲げる事ができていない。
- 企業が、ITを経営に「どう活かしていきたいのか」が、明確になっていない。
- 脆弱なリーダーシップ
- 特に、システムの再構築を検討する際に、今迄実現できていた機能の見直しや廃止など、取捨選択を充分に吟味・検証できていない。
結果、部門最適化により肥大化したシステム機能をスリム化できず、ITコストの高コスト構造からの脱却、ひいては次のステージへのレベルアップに踏み出せない。
- 特に、システムの再構築を検討する際に、今迄実現できていた機能の見直しや廃止など、取捨選択を充分に吟味・検証できていない。
- 業務知識の不足
- 個々の業務系システムの整備を通じて、各々の業務分野での最適化を進めてきた結果、マネジメントやマーケティング等、定型業務(ルーチンワーク)を主としない業務分野で課題を精査し、要件をまとめる事のできる人材が企業・ベンダー共に不足し、ひいてはITの利活用の範囲を広げる事ができない。
かつ、上記が相互に作用し合い、ITマネジメントの成熟を阻害している事態が散見されます。
4.ITビジョンの成熟に向けて
前章でも解説した通り、これからのクラウド時代は、
新しい技術・ソリューションを積極的に取り入れてITを活かしたイノベーションを進める企業と、
ITに対する位置づけをレベルアップしきれず、ITを活用したイノベーションを進める事が出来ない企業の二極化が更に進むと考えられます。
(当社はこれを”IT格差の拡大”と呼んでいます。)
こうしたIT格差の拡大が進む中にあって、ITを活用してイノベーションを進める企業となるには先ず、
各々の企業で自社のITビジョン(企業がITに何を期待し、ITを何の為のツール(経営資源)と位置付けているのか)を再検討し、
適切に設定する事から始める必要があります。
IT経営力の成熟度モデル
図表(5)は、CIOパートナーズがITビジョン検討の道標と位置付ける「IT経営力の成熟度」をモデル化したものです。
IT経営力が成熟していない企業(図表(4)の第1・2ステージにあたる全体の約65%の企業)の多くは、「ITを業務の効率化を進める為の道具」と位置付けています。
こうした企業では、再構築などのIT投資を機に、業務の効率化(簡素化や自動化)に懸命に取組んでいます。
但し、効率化が既に一巡している企業も多くこうした企業では、
再構築等に伴う新たな投資に見合うリターンを得難くなっているケースも散見され、その事で苦しんでいる企業も少なくありません。
次に、ITを主に管理強化のツールと位置付ける状態(図表(4)の主に第3ステージにあたる企業)があります。
具体的には、マネジメント情報の充実を図り社内の意思決定の質やスピードを高める、
業績等の管理・評価の情報を充実させ、社内の意識改革(例:利益マインドの浸透など)を図る、等に取組む事例が挙げられます。
但し、こうした取組みは、一般的に間接的な効果は極めて大きいものの、メリットに対するコミットメントが曖昧になりがちで、
ITビジョンが未成熟な企業では効率化を目指した取組みと抱き合わせで、副次的な位置づけに留まる事が少なくありません。
更に、IT経営力が最も成熟している状態(レベル3)にあり、ITを利活用して事業の差別化を積極的に図る企業群があります。
こうした企業は自社に留まらず、サプライチェーン全体を視野にITを使って業務(ビジネス)の最適化を図る事を常に指向しています。
また、結果的に調達先や顧客(企業)・消費者との接点が密になる事で、
更に強固な取引関係の確立や、情報共有を通じた一層の差別化の推進など、事業活動に直結する総合的なメリットを期待できます。
また、企業のシステム部門が受け身で待っていても、IT経営力の成熟を促す事は出来ません。
むしろ、
システム部門が主体となり、
経営者に対してITビジョンを積極的・能動的に提案し続ける
事が、IT経営力の成熟に向けた第一歩といえます。
5.クラウド時代のIT投資の方向性
次に、これからのクラウド時代における企業のIT投資(IT整備)の方向性をまとめます。
筆者がこれまで支援してきた企業でも、IT機能のメタボリック化が深刻なケースが多く存在します。
これは、主に社内のユーザー部門の要望に汲まなく対応してきた事に起因し、
企業内でシステム部門の“立場”が相対的に弱かった
個々の業務(要望)の定量的な評価を踏まえた選別・対応に取組んでこなかった
などが背景にあります。
ただ、ITがメタボ化した状態では、管理強化や差別化に向けてIT整備に取り組もうにも、
複雑化した既存システムがボトルネックとなり、効率的なコストパフォーマンス(投資対効果)を期待できません。
コストパフォーマンスの効率化を阻害する主な要因
- ベンダーの事実上の固定化(選択肢の除外)
- 特に管理強化を目指す上で、基礎データの生成元にあたる既存システムが複雑化した状態では、整備過程で思わぬ制約が生じる懸念があり、既存システムの担当ベンダーに発注先が事実上、固定化されてしまう恐れがある。こうした場合、見積り額に競争原理が働かず、投資額が割高になる懸念が生じる。
- 要件の膨張と実効性の低下(メタボな管理システムに…)
- メタボ化の原因といえる「IT(機能)より、業務・要望を優先する」考え方が経営者や社内(ユーザー部門)に蔓延した情報リテラシーが低い状態では、管理強化を狙った新たなIT整備に対しても、部分最適の管理ニーズ(要望)ばかりがあがり、要件の膨張を招くばかりか、本来、意識改革や経営管理の高度化に向けて、全体最適の視点で検討の上、実装すべき要件や機能がないがしろになる可能性があります。
無論、既に大きな負担となっているITコストをそのままに、
更に多額のコスト(投資)を費やす事が経営上、許されざる判断だという事は言うまでもありません。
従って、
既存システムのスリム化こそが、企業のIT経営力向上に向けた、最初の取組み
といえます。
6.最後に
最後に現在、経営層からITコストの削減指示を受けて、
システム部門自らが自社システムの改訂・改修・バグ対応に取組む企業も未だに少なくありません。
この様な場合、システム部門内の業務効率をより高める為、
限られた人員で部内の分業化(専門化)を更に進め、結果的に属人化を招くと共に、
人事交流の硬直化(ひいてはシステム部門の孤立化)
全体を見渡して戦略的に動ける人材の不在、等
といったITマネジメント上の弊害を抱えるケースも多く見受けられます。
片や、クラウド・サービスは、従来のパッケージや個別開発されたシステムと異なり、
低コストで導入が可能なものの、自社に合わせたカスタマイズには限りがあり、
「IT(機能)に業務を合わせる」導入姿勢が前提といえます。
(とはいえ、“それなりに”機能が充実したサービスでないと「顧客企業のITに業務を合わせる姿勢」に甘え過ぎたサービスも、今後は当然、淘汰が進むと予想されます。)
従って、クラウド・サービスを戦略的に取り入れ、
メタボリック化したITのスリム化と図りつつ
取組みを通じてITマネジメント体制の強化
これらを図る事こそが、クラウド時代に企業が採るべき現実的な選択肢だと、
私たちCIOパートナーズは考えています。
CIOパートナーズ株式会社
代表取締役 吉田明弘
当レポートは、筆者がビジネスブレイン太田昭和(前職)に在籍していた2010年6月に、同社が大阪で開催した「ITマネジメント・セミナー」における筆者自身の講演内容(第2部・IT投資効果の改善に向けたポイント)等をベースとしながら、クラウド・サービスの普及が進む最近の動向等を反映したうえで、レポート化しています。